村の人間がやってくる。町の役所の五助やな。
「なあ、和尚さん、相談があるんじゃがな?」
わしが
「金を貸して欲しいんか?
利息はトイチ、拙僧の取り立ては少々エグおまっせ」
村人が
「そんな萬田金融みたいな。
だいたい、寺に金なんか誰が借りにくるもんかいな」
わしが
「何も知らん奴やな、その昔は寺は金も貸したし、寺で博打も開いた。
その名残が『寺銭』いう言葉や」
村人が
「ほんま極道坊主やな」
わしが
「それやがな。『極道』いうのはもともと道を極めた坊主のことを言うんや。ほんまでっせ」
村人が
「金やないんや、人生相談や」
わしが
「断る!
金の相談なら行政書士に契約書作ってもろて、司法書士に担保登記してもろて、公証役場で公正証書にするなら、お前の家を担保に500万円までは貸す。しかし人生相談だけはいやだ。」
村の住人が
「人生相談は坊主の役目やないか?
何であかんのや?」
わしが
「相談いうことは、わしがやめろいうたらやめるぐらいの腹しかないいうことや。
そんな根性のない奴の話は聞かん。
第二に、相談いうことは、他人を信じるいうことや。
信じるいうたら綺麗やけど、他人を頼っとる。任せとる。他人を頼る人間は、結局、他人を疑い、他人を恨むことになる。
村人が
「相談したかて、和尚さんの責任になんかせんがな」
わしが
「お前の命より大事な無修正のエロビデオどこにある?」
村人が
「あれは俺だけが知ってる金庫の中や。和尚、貸しませんよ。誰にも貸しません!あんなもん見られたら、俺の信用ゼロどころか変態言われるわ。俺しか知らん場所や」
わしが
「そやな。お前だけが厳重に管理してるエロビデオは紛失しても、お前は誰も疑わん。お前しか知らんのだから、お前は誰のせいにもせん。
しかし、お前の庭先においてる盆栽はどうや?
お前は近所に盗む奴はおらんと信用しとる。
しかし万が一、盆栽が消えたら、近所のもんも結局、『やっぱり止むに止まれぬ事情で盗ったんやないか?』と疑われることになる。
結局、お前の安易に信じる心が容疑者を大勢作るんや。
『人を見たら泥棒と思え』
と言うのは、そう考えたら、泥棒を作らんですむという教えや。」
村人は
「ま、そう言われたら、そうや。
俺が働く役場でも他の奴がくすねるかも知れんと思うから大事な書類や印紙は鍵つきの引き出しにしまうから、紛失せんからみんな仲良く行くわな。」
わしが
「話長くなったが、お前は自分の定まらん気持ちをワシに何とかさせようと思った。
しかし、ここでワシがなんどアドバイスして、失敗したら『あの和尚が変なこと抜かしよるからや』になるんや、ワシのせいになる」
村人は
「俺はどうしたらええんじゃ」
ワシは
「お前なー。例えば、お前が会社の中で自信のある素晴らしい企画書を書いたとする。
お前『この企画書どう思う?どこ直したら良い?』って他人に聞くか?」
村人は
「言う訳ない。アイデアをパクラれる」
ワシが
「そうじゃろ?ええアイデアは人生にしろ企画書にしろ、ずるい奴等が狙っておる。
言いたくないのがええアイデアや。
『誰にも言いたくない』と思うまで考えてみ。それがお前の最高の人生の進路や」
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