無頼

ワシの理弁寺の山門に掲げられた額は『無頼』つまり『頼らない』ということじゃ。
神仏の話や銅像見せられて、すぐその気になるようじゃ、人生迷うわなぁ。
いっそ、何にも信じないというのも立派な考え方よ。

今日は、久しぶりに、離婚ノイローゼ男を連れて喫茶店へでも行くか?
ちょっと、うるさいおばさんおるけどな。
喫茶店について、二人で珈琲を飲んでおった。
案の定、うるさい50歳のおばさんが寄って来寄った。

おばさん
「和尚さん、和尚さん、この人は誰?
聞かせて、聞かせて、どうせ、なんか悩みあって、理弁寺に来てる人でしょ?
どんな問題?
私、こんな客商売してるから、私、口は堅いから安心して!
ね、聞かせてよー‼️

ワシが
「オバン、関係ないから、引っ込め邪魔すんな。
お前みたいな覗きたがりの話たがりのどこが口堅いんじゃ、失せろ!」

ノイローゼは下向いて静かに苦笑いしておった。

ワシが
「あの婆、ワシが有名人とこの店に来たら、電話して自分の友達集めるし、すぐに芸能人のこと自分の友達みたいな話し方するからな、ちょっと、もう店変えるわ。
こんな店に連れて来て悪かったな。
トイレにいくから待ってくれな」

ノイローゼ男は
「はい」
と静かにうなづいていた。

ワシがトイレから帰るとあろうことか、その50歳のオバンが一人になったノイローゼ男に嬉しそうに詰問しておった。

「へー、あんた、離婚して、子供は奥さんが引き取ったん?
もしかしたら、お子さんが別の男の人を『お父さん』って呼ぶかも知れないよ!
本当のお父さんが新しい男に可愛い子供を取られる!
それってどんな気持ち?
ね、ね、どんな気持ち?」

ワシは喫茶店内にあったビール瓶で後ろから、このオバンの頭を叩き割った。
オバンは後ろ向けに倒れた。

ワシは
「おい、オンどれ、クソ婆!
お前、一番聞いてはならんこと、口にしよったのお!
ワシはこの村に昔からおって、お前の実家がど貧乏なことも、お前が赤点しか取れん人間やったことも、お前が万引きで捕まったことも全部知っておったが、事情のあることと思って、お前をバカにしたことは一度もなかった。
しかし、今日の今日は違う。仕方なく離婚して、正にお前の言う問題で、死ぬほど苦しんでる人間捕まえて、
『あんたの子供が他人を父親と呼ぶ気持ちはどうか?』
と嬉しそうにヌケヌケ聞きやがって!お前は人間界最低じゃ‼️

ワシはこの肥満のバカ女の前髪掴んで中腰にして、ビール瓶で眉間を叩き割った。

「お前は最低という名に相応しい」
ワシはこのオバンの顔を踏み付けた。
興味本位で、悩んでる人間の心に、犬の糞でも踏んだ後の土足で踏み込むとは許せん。

頭から血を流して、痙攣してるこのオバンに、ノイローゼ男が近寄って、静かに答えた。

「そ、それは、ほ、本当に辛いです。で、で、でも、子供がそれで、幸せに暮らせるなら、不自由しないなら、あ、有り難いです」

ノイローゼ男は弱い男には違いないが、真っ直ぐな男だった。
こいつも今、成長の途中にあるのや。
期待が持てる。
こんな弱い人間こそ、やがて本物の男になる。
ワシは坊主として、この男が復活することを確信した。

ちなみにの、この最低の下劣な言葉を吐いた喫茶店のオバンは、近畿地方に一名実在するからな、みんな気をつけい。
カーネギーやないが、人に不誠実な興味を持つ人間は仲間にしたらあかん。

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