青びょうたんの女子高生

青びょうたんの女子高生の清美がやってきた。
この理弁寺も、色々な人が相談ごとにやってきて、結構、良い存在やないかと、ワシは思てる。

今の人は寺の仏像や天井の飾りを見て法要のためのものやと思てるが、そうやないんや。
想像上のものに過ぎんがあれは仏の世界を再現したとして、昔はみんながやって来てくつろぐサロンやったんや。この世にいながら、俗世を離れて仏の世界を味わう訳や。

密教で読む理趣経の冒頭は大日如来がいる大摩尼殿の描写から始まるんや。
イメージサロン、ある意味、イメクラやな。名前なんて付けよう。
イメクラ昇天、イメクラ極楽・・・どうもおかしいな。

ワシが
「清美、よう来たな、ま、ゆっくりしていけや」

清美が
「和尚さん、私、先生やらみんなに『お前、鬱病やから、もっと気合い入れてシャンとせい、頑張れ!』
って言われたんや。励まされた。
でも、私、疲れた。」

ワシが
「お前は頑張り過ぎたんや。
遊ばないかんよ。
お前、ばあちゃんがボケてしまったし、お前の兄ちゃんは発達障害、勿論、この二人にも罪はないが、言うてみたら、お前、介護疲れやな。
ワシよりよっぽど修行しておる。
ご苦労様やな」

清美が
「けど、和尚さん、私は鬱病かな。
病気や病人やて言われて悲しくて」
とポタポタ、床に涙を落とした。

ワシが
「鬱病なんて病気は存在せんよ。
お前、400メートルトラック全力疾走したら、誰でも息は乱れるし、まともには歩けん。
これを病気や障害やと言うか?言わんやろ?
疲れに病名つけて薬売りたい奴がおるだけじゃ」

清美が
「じゃ、私はどうしたら?」

ワシが
「まず遊ぼうよ。
それで美味いもの食おう。
後は運動しよう。
お前、そこの仏前に置いてある果物の缶詰、全部持って来い」

ワシはパイナップルも桃もみかんの缶詰めも、駿河屋のプリンも山形のズンダ餅も全部、清美に喰わしてやった。

清美が
「和尚さん、美味いな。いつもこんなもん食べてるんか(笑)」
と笑った。
「檀家の供え物。坊主丸儲け」
甘いものは疲れによく効く。

ワシは疲れたり、泣いたりしてた人間が笑う時ほどうれしいものはないんや。

ワシが
「清美、豚になってはいかんから空手の稽古するぞ。
まず四股立ちになって正拳突くぞ。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり。
腰を落とせ、もっと落とせ。
早い、早い。そんな突きは護身では効かんよ」

ワシは昔、空手仙人に直に教わった通りに教えた。
休憩を沢山入れながらな。

「清美、10回出来たな。そしたら、次は5回で良いから丁寧にやれ」

清美は
「10回出来たら、数増やすんやないの?」

ワシが
「それが現代人の焦りや。数減らして丁寧にやれ。」

清美はだんだんと落ち着いて腹が座ってきた。呼吸も良い感じや。

ワシが
「さ、そろそろ、掃除、雑巾がけしてもらおうかい。モップやないぞ。雑巾や」

清美が四つん這いになって、床を拭く、清美はあっと言う間に汗まみれや。本堂、全部拭かした。

清美が
「全身もうパンパンや。
しかし、和尚さん、床をこんなに近く見ると色々汚れてるもんやな。
モップでは気づかんね」

全行程1時間。清美はもう堂々としている。

「清美、これが、日本生活の武道、
理弁寺流雑巾道や。
みんな高い金払って運動に行くが、雑巾がけは最高や。
全身に身が入り、臍下丹田が鍛わって筋肉とリンクする。
これで全身に力と気合いがみなぎる。
落ち着いて床の汚れを探すことで気づきの力も着く!もう鬱など屁でもないわい。」

要は日本の生活には鬱を潰してまう力があるんや。鬱なんぞ雑巾一枚で拭きとれるわい。
昔の日本人は食うか食えんかでは悩んだが、自由だ権利だ、目に見えない概念では悩まなかった。

「清美、また、缶詰食わしたるから、2日に一回、掃除に来てくれや」

清美は元気に帰って行って、毎日来るようになった。

悩むのは真面目やからや。
そんな人はみんな仲間や。
みんなも、疲れたら、理弁寺においでや。ワシと遊ぼうよ。

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