空手をやっとった奴が

空手をやっとった奴が

「和尚さん、僕、安い月謝でいじめられっ子に空手を教えて、イジメから助けるんです」

言うて燃えてたから、ワシは

「まぁ好きにせい。ワシは何にも言わん。」

というて放っておいた。
実はワシは賛成ではなかったけどな。

半年ほどして、そいつが寺に訪ねて来た。

ワシは半笑いで

「まさか、お前、いじめられっ子とその親にいじめられてるという報告ではないやろな?」
って言うたら、気まずそうな顔で首を縦に振った。
ワシは飲みかけたお茶吹いた。

そいつは
「まず、親がたった2,000円の月謝を高いという。行かんかった時の分は負けろ。空手着はただでプレゼントしてくれ言うんです。優しいことが売りの先生なんやからそれぐらいしてくれと。
月謝滞納してるのにネイルサロンに通ってるお母さんもいるし。
子供は真剣に何回教えても覚えないし、稽古中も身勝手なことばかりやるんです
だんだん腹が立ってきましたわ。」

ワシは聞いてて、気の毒やと思いながら笑うた。

「それはな、お前が世の中の全てのイジメ問題を美化しとったからそういう目に逢うんじゃ(笑)
確かにな、気の毒なイジメも沢山あるから、一口にお前が間違えてるとは言わん。イジメ自体が良いとは言わん。

しかし、イジメられてる人間には、普通に付き合ってたら、周囲にとって大迷惑やからイジメで弾き出されてる場合もあるんや。

お前の生徒とその親はまさにそのグループや。
周囲の家庭からしてみたら、イジメでそいつらから自分達の平和な生活を守っとるんじゃ。

そのお母さん達はな、普通には回りに付き合ってもらえる人間はいない。

そこにお前というお人好しがノコノコやってきた。
お前になら言うこと聞かせられる思うたんや。お前相手なら、自分が偉そうにいじめる立場になれる。そう考えたんや。
子供もそうや。そんな身勝手な子と他の子も遊びたくない。だから回りはイジメて仲間はずれにしただけや。
つまりは、力があったら、いじめる側に回っとる奴らやな。

そんな親子、ワシならもっと辛い目に遭わせたるわい。
イジメが良いことやと言わんが、その類のは普通や。

お前のイジメを無くそうとする心根は間違ってない。
だけど、今、お前がやっとることは、イジメられて反省せなならん人間に甘える場所を与えて、反省せんままに力を与えようとしとるだけや」

そいつは
「和尚の言うそのままやな」
と言うた。

ワシは
「人を見て法を説けとは、このことや、まともなイジメられっこだったら、お前の空手教室は成功したやろな。
そやけど、お前が今、教えとるのは、イジメられっこやない。『イジメさせっ子』や。
空手で学ばせるなら、合同稽古の中でお互いを尊重させることを学ばせい。それが『和の今教育』や」

どうも、世の中のニュース報道はいかんな。
死刑にしたらなあかんイジメっ子もおるし、教育が必要なイジメられっこ、イジメさせっ子もいてるんや。

冷たいことを言うようやが、自然社会において、いじめられるというのは、やっぱり負けやど。勝つ努力、いじめられん努力をせい。

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